家づくりのご相談をお受けしていると、
多くの方が口にされる言葉があります。
「とにかく、暮らしやすい家にしたいんです」
間取りのこと、性能のこと、デザインのこと。
話題はさまざまですが、突き詰めていくと、
皆さんが一番大切にされているのは
『毎日の暮らしがどうなるか』という点だと感じます。
ただ、「暮らしやすさ」という言葉は、
とても大切でありながら、少し曖昧でもあります。
人によって意味が違い、
正解が一つではないからです。
よくあるのが、
「回遊動線にすれば暮らしやすい」
「収納が多ければ安心」
「広いリビングがあれば快適」
といった考え方です。
もちろん、どれも間違いではありません。
ただ、それだけで“本当に暮らしやすい家”になるかというと、
少し違うようにも感じています。
暮らしやすさは、
図面の中だけで決まるものではなく、
住んでからの日常の積み重ねの中で
じわじわと感じられるものだからです。
私たちが家づくりの中で大切にしているのは、
間取りを考える前に、
そのご家族の「1日の過ごし方」を想像することです。
朝はどんな流れで支度をするのか。
仕事や学校から帰ってきたあと、
家の中でどう過ごしたいのか。
休日は、家でゆっくりしたいのか、
外とつながる時間を楽しみたいのか。
こうした時間の流れを整理していくと、
必要な広さや動線、居場所は、
自然と輪郭を持ちはじめます。
もうひとつ大切なのが、
家族それぞれの距離感です。
みんなで集まる時間が心地よい家もあれば、
それぞれが自分の時間を持てることで
暮らしやすくなる家もあります。
家族仲が良いからこそ、
少し距離を取れる場所がある。
そんな余白が、
長く住む家には必要なのかもしれません。
そして、暮らしやすさを考える上で
忘れてはいけないのが変化です。
お子さまの成長、
働き方の変化、
年齢を重ねた先の暮らし。
今の正解が、
10年後も同じとは限りません。
だからこそ、
「決めすぎない」「使い方を限定しない」
そんな余白を残すことが、
結果的に後悔の少ない家につながることも多いです。
「住んでから、何か違和感が出てきた」
そんな声を耳にすることもあります。
でもそれは、
失敗したというより、
考える視点が少し足りなかっただけなのだと思います。
家づくりは、
分からないことがあって当たり前です。
図面だけで暮らしを想像するのは、
誰にとっても簡単なことではありません。
暮らしやすさは、
スペックや流行だけで決まるものではなく、
誰と、どんな話をしながら家づくりを進めるかで
大きく変わってきます。
正解は一つではありません。
だからこそ、
「どんな家にしたいか」よりも先に、
「どんな暮らしをしたいか」を
ゆっくり言葉にしていくことが大切だと考えています。
住んでから、
「この家で良かった」と思えるように。
そんな家づくりを、
これからも一緒に考えていけたら嬉しいです。
tomio小山田憲央



